大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1412号 判決

原告 星野喜彦

右訴訟代理人弁護士 小林昶

同 高原昌之

被告 オリオン座、新オリオン座、アルサロオリオン

長原成行こと 長原伸行

主文

被告は、原告に対し、金一六五、三〇七円、及びこれに対する昭和三四年三月二日から完済まで、年六分の金員を支払わねばならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金五〇、〇〇〇円の担保を供して仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

成立に争いのない甲第一ないし第三九号証、第四〇及び第四一号証の各一、二、第四二号証に、原告及び被告(後記援用しない部分を除く)各本人尋問の結果を綜合すると、原告が菓子卸売業を営む商人であるところ、映画館オリオン座及び新オリオン座、アルサロクラブオリオンがいずれも被告が経営しているものと信じて、昭和二八、九年頃から右各館内売店へ、代金は毎月末当月売渡分を締切り翌月五日頃までに支払を受ける約束でピーナツツ、あられ等を卸売していたが、同三三年一〇月一日から同三四年三月四日までの間に、右各売店へ売渡した右商品代金合計金一六五、三〇七円の支払を受けていないこと、右映画館、ならびに、アルサロの営業名義人が、いずれも訴外オリオン興業株式会社となつており、被告がその代表取締役であつたが、映画館ならびにアルサロに出入する商人等に対しては訴外会社の名称より被告個人の名前の方がよく通つていることを被告自身も熟知しており、原告等商人に対する前記各売店の債務支払のため振出した小切手、約束手形等の振出人名義もすべて被告個人の名でなされ、また、右商人等に対する挨拶状等も、肩書に前記映画館等の名称を附記した被告個人の名で出されていたような事実から、原告が訴外会社の存在することすらも知らずに前示の通り信じていたこと、原告が前示取引の際買主が被告であることを特に被告に質すことをしなかつたが一方被告も原告に対し、買主が訴外会社であることを明示しなかつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は、原告本人尋問の結果に照して信用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。

ところで、右認定のように、会社自体よりもその代表取締役個人の存在が大きく認められていることを代表取締役個人も十分認識しており、他方、会社と取引する相手方が、会社代表取締役個人と取引する意思を有し、かつそう信じているような場合に、右代表取締役が、その取引の効果が会社に帰属することを主張せんが為には、取引の際、特に会社代表者としてするものであることを明示すべく、この明示を欠く場合には、代表取締役個人がその取引の効果を受くべきであると解するのが相当である。従つて、前示の通り、売買にあたつて特に買主が訴外会社であることを明示したと認められない本件においては、被告は原告に対し、前示売買による代金支払義務を負うといわねばならない。

よつて、被告に対し、前示売掛代金残額一六五、三〇七円、及びこれに対する訴状送達の日の翌日たる昭和三四年三月二一日から完済まで、商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例